Sunday, February 17, 2013

古書セール I love second-hand bookstores.




 インターネット上の「本屋」は私も常連客だが、さりとて街の本屋さんも捨てがたい。とくに古書店には思いがけない発見がある。古本漁りはどこへ行っても止められない。
 アメリカでもそれぞれの街に特色を持った古書店がある。だが、古本探しの醍醐味は、実は別のところにあるのだ。
 秋になると週末の三日間、各地の図書館やコミュニティー・センターで古書セールが開かれる。図書館の廃本や寄付で集められた本が、ダンボール箱のまま部屋いっぱいに並べられ、これが驚くほど安い。しかも、会期の中日は半額、最終日は大きな紙袋に好きなだけ本を詰め込んで数ドルという具合に、連日値下げだ。時には思わぬ稀こう本も見つかるとかで、業者や好事家も交えての宝探しとなる。
 アメリカは、世界各国から人が集まる国だけに、こうしたセールにも外国の古本が並ぶ。ヨーロッパのものが多いが、日本や韓国、中国の本もある。その古本の山から、昭和四年に東京で出版された「赤堀西洋料理法」という本を見つけ、一ドルで買った。
 著者は赤堀峯吉という料理界の権威で、明治十五年創設の赤堀割烹教場(赤堀栄養専門学校の前身)の三代目場主。明治末年に欧米に留学し、研究した西洋料理の数々をハンドブックにまとめたのだ。調理器具の説明に始まり、肉、魚、野菜料理、菓子にいたるレシピが約七百種も載っている。
 思うに、この本を携えて海を渡ったのは、アメリカ人に嫁いだ日本女性ではなかったか。里帰りした本を前に、感慨深いものがある。
 興味を引くのは、西洋料理名の和訳である。チキンサラダは「鶏肉酢の物」、ハンバーグ・ステーキは「挽肉牛酪焼き」、コンソメスープは「灰汁引清汁(あくひきすまし)」などと訳を当てている。今では、ほとんどの日本人が、この和訳を見ただけでは、何のことやら分からず、食欲もわかないだろうが、半世紀以前には、エキゾチックに聞こえたのだ。
 食事作法についても、かゆいところに手が届くほど懇切丁寧で、「ナイフで物を切る時、キーキーという音をさせるのはいけません」とある。昔の書物から学ぶべきことは多いようだ。
 (2001年10月27日)

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