Monday, February 4, 2013

向精神薬



 先日、テレビで向精神薬「リタリン」の特集番組を見た。学校の授業中に、落ち着きがなく、歩き回ったりする「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)児は日米ともに深刻な問題だが、児童を落ち着かせる「リタリン」など向精神薬の投薬治療が、日本でも急拡大しているとのレポートだった。
 リタリンはチバガイギー社が、うつ病の薬として開発。中枢神経興奮剤の一種で一般名はメチルフェリデート。米国でADHDの治療薬として注目された。三年前、在米中に「米国で百万人以上の児童がリタリンを常用している」と乱用問題の記事を書いたら、日本からお医者さんが、「詳しく知りたい」と訪ねて来たほどだ。
 リタリンを服用するとどうなるか?
 「気力がみなぎって来て、集中力が増す」「気分が晴れやかになり、物事に積極的になれる」など患者側の証言があり、症状の改善効果は著しいという。
 その一方で、習慣性があり、頭痛や不眠症などの副作用が見られる。米ジョンズ・ホプキンズ大のブレギン博士は「脳への血の流れを減少させ、思考力や記憶力を弱める」とも警告している。私の友人の一人も、長年リタリンを服用しているが、ハイな時と落ち込んだ時の落差が激しいようだ。
 二年前に米アトランタの高校で銃乱射事件を起こした十五歳の少年が、それ以前から神経障害に陥っていてリタリンを服用していた事実が明るみに出た。それ以来、学校での暴力事件の背景に、向精神薬の乱用が頻繁に見られるとの報告がなされており、因果関係の追及が今も続いている。
 ハーバード大のグレンマラン博士は「向精神薬は、気分を変えさせ症状を軽減できるが、病気の根本原因を取り除くことはできない」と指摘する。
 これで思い出すのは、ある銃乱射事件で逮捕された犯人が、薬のせいでにたにた笑いながら、憎む相手に引きがねを引いたという、ぞっとするエピソードだ。
 米国では、リタリンがトレンドとなる中で、子どもたちへの「リタリン投与に反対する親の会」が結成されるなど、反発する動きも活発だ。米国立精神健康研究所(NIMH)は、幼児への向精神薬の影響調査を続けている。日本でも、リタリンの健康保険適応には十分慎重を期すべきだろう。
 (2001年5月19日)

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