Wednesday, February 6, 2013

トレンドな散骨



 小説「マディソン郡の橋」は、アイオワ州の片田舎に住む農家の人妻と行きずりの写真家との秘められた恋物語だが、そのクライマックスで、ヒロインは死に際し「死後火葬にして、その骨灰を橋のたもとに撒くように」と遺言する。恋の舞台で、永遠に眠ることを望んだのである。
 米国では土葬が一般的だが、「葬式は消費者の最後の権利」という消費者団体の報告書などによると、最近は墓地の不足や、コストが割安なことから、火葬が急増している。この四半世紀で何と五倍に増え、昨年は全米で六十万件を超えた。死者四人に一人が火葬された。
 日本では、火葬に付したあとの骨灰は、遺族の手で一部を骨揚げして埋葬し、残りは業者が処分する。ところが、米国では、大人一人で二、三キログラムになる骨灰を、プラスチック容器に入れて遺族に渡す。半数近くは、それを骨壺に入れて暖炉の上に置くなど、家で保管するそうだ。
 最近のトレンドは、海や山に撒く散骨だ。遺族が、船や小型機をチャーターして自ら散骨に行くか、業者に代行してもらう。
 だが、ここに厄介な問題が出てきた。首都ワシントンに近いチェサピーク湾でバーベキュー・パーティーを楽しんでいる人々に、突然砂ほこりが降りかかった。調べてみたら、近くで行われた散骨が、風向きの加減で飛んできたのだ。砂浜に直接骨灰を撒く不心得者まで現れ、近隣住民が悲鳴を上げたというニュースが話題になった。
 ところが、インターネットを調べていたら、面白いホームページを見つけた。ジョージア州のベンチャー企業が、骨灰をコンクリートに混ぜてブロックをつくり、これを海に沈めてサンゴ礁を造るプランを進めているのだ。一・二年たつと「骨灰ブロック」にサンゴや海綿が付着し、数年で魚たちの楽園になるという。企業の名前も「エターナル・リーフス」(永遠のサンゴ礁)。大阪・天王寺区にある一心寺の「お骨仏」に匹敵する名案だ。
 死後もあの素晴らしい出会いの場所で眠りたいという「マディソン郡の橋」のロマンティシズムの向こう側で、迷惑している人があることも心すべきとの教訓が生かされている。
  (2001年6月2日)

No comments:

Post a Comment