Friday, February 15, 2013

変わりゆく花風景




 秋の一日、奈良・斑鳩のさとに遊んだ。聖徳太子ゆかりの法隆寺や中宮寺の仏たちは、昔ながらの微笑みで迎えてくれた。なだらかな丘陵に沿う道を法輪寺、法起寺へと歩く。辺りの稲田はすっかり色づき、刈入れを待つばかりだ。
 だが、斑鳩の景観は、昔とはずいぶん様変わりしていた。休耕地にはコスモスが咲き乱れ、荒れ地や路傍は一面に、セイタカアワダチソウのけばけばしい黄色の花が波打っている。それは、つつましさと調和を愛した日本の伝統的美意識にそぐわないものだ。
 セイタカアワダチソウは北米が原産である。英名はゴールデンロッド。アメリカではハーブの一種として、昔は傷薬や発熱・胃腸病の煎じ薬に利用され、染料やワインの原料にもなったという。だが、今では、繁殖力が強く、他の草花を枯らしてどんな土地でもはびこるので、嫌われ者だ。
かつて花粉症の原因とも言われたが、実際は花粉が風で飛び散ることはなく、虫を介して受粉すると分かった。えん罪が晴れたせいか、生い茂るままに放置されがちだ。バージニア州では、道路際に生えると見通しが悪くなるので、夏の終わりごろから、役所の職員らが超大型の草刈り機で頻繁に刈り取っていた。
 日本には明治ごろ入ってきたというが、猛烈に増えたのは戦後だ。今や日本中で見られるが、聖徳太子のさとまで席巻していたとは、さすがに衝撃だった。
 「萩の花 尾花くず花 なでしこの花 をみなへし また藤ばかま 朝顔の花」
 万葉歌人の山上憶良が詠んだ秋の七草である。それ以後、様々な花が入って来たが、七草の取り合わせは変わらない。その中の黄一点がオミナエシだ。オミナエシは「女郎花」とも書く。たおやかで上品な花姿は、同じ黄色でもたけだけしいセイタカアワダチソウとは、比べ物にならない。
 米国中西部では、滅びゆく大草原の野生の花を保存しようと、高速道路の両側にフラワーベルトを造っている。斑鳩でも、自然と調和した古来の風景を取り戻すために、秋の七草を植えてはどうか?その方が、「和を以って貴し」とした聖徳太子の心にもかなうと思うのだが…。
 (2001年10月20日)

No comments:

Post a Comment