Thursday, February 7, 2013

ネットの出会い



 米カンザス州に住むケーシー・ニコルさんという十九歳の女子高生が五月十五日(2001年)、二年間に渡るガンとの闘いの末に亡くなった。その闘病日記を掲載して来たインターネットのホームページ(HP)が、「愛と喜びをありがとう」というメッセージとともに閉じられた。HPにはブロンドの美しい女性の写真が載っており、日記に感動した人たちが、この一年間に何千もの励ましの電子メールやプレゼントを彼女に贈った。
 だが、不思議なことに、誰一人として実際にケーシーさんに会ったことはなかった。すべてのやり取りは、ネット上で行われていたからだ。そして、香港在住の作家がケーシーさんに深い同情を寄せ、一目会おうとしたことがきっかけで、すべてが明るみに出た。
 実は、ケーシーさんは、全く架空の人物だった。その闘病日記と電子メールの返事は、カンザス州に住む四十歳の主婦の創作だった。連邦捜査局(FBI)は、ネット詐欺の容疑で調べたが、その主婦が受け取った金品が数百ドルに過ぎないため、捜査を打ち切った。
 ネット上での出会いは今や世界的な潮流だが、バーチャル・リアリティを現実と混同しがちなところに、大きな落とし穴がある。
 「ネットの上では、相手の顔が見えないので、人は思いきって本音を表現できる半面、自分をいかようにも装えるから、人を騙すのも簡単だ」と「オンラインの誘惑」の著者、エッサー・グインネルさんは言う。
 ネット上で、男女ともに年齢をごまかすのは、もはや当たり前。経歴詐称も珍しくない。性別を偽る「ネットの女装」まである。電子ボードで人のチャットや電子メールを付け狙う「ネット・ストーカー」もいる。そして最悪のケースが、ネットでのやり取りの延長線上の現実世界で起る、出会い系サイトでの詐欺やメル友殺人だ。
 だが、われわれは来た道を引き返せるだろうか?
 ネット上のコミュニケーションを止めることなど出来ないのだ。グインネルさんは言う。「ネットの出会いは、活字のやり取りだけだから、驚くべき早さで親しさが増す。だが、それは現実でないことを十分わきまえる必要がある」
 (2001年6月9日)

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