Sunday, January 27, 2013

倒産セール



 「大不況のため、一流メーカー・一流問屋の倒産品十万点、処分」
 ある朝、新聞の折り込みに倒産セールの大広告が混じっていた。商品の写真を三百五十枚近くもフルカラーで印刷してある。倒産セールには似つかない、明る過ぎる広告だ。私はさっそく、実態を探るために、女房と連れ立っていった。
 セールは郊外のホテルで、週末に限って行なわれていた。なるほど広告には偽りなく、ブランド物の衣料品や雑貨、食品に至るまで、超安値で売られていていた。
 一つひとつ商品の製造、販売元と値段を見て歩いた。眼鏡の主産地である福井県鯖江市の販売元が放出した老眼鏡がわずか三百九十八円だったり、ST(安全玩具)マークの付いたラジコン・カーが半値だったりした。ただし、ブランド物のほとんどは、中国や東南アジアの製品だ。
 昨年、国内の倒産件数は約一万九千件。負債総額では二十三兆円と前年比七七%増で、戦後最悪の事態となった。その余波が、この会場に押し寄せているのは明らかだ。
 「この会場、バージニアにあったディスカウント・ストアに何だかそっくり」と、女房が言った。
 そうなのだ。ワシントンに隣接したバージニア州には、「エイムズ」という超ディスカウント・ストアがあって、中国をはじめ東南アジア、南米、アフリカで生産された衣料品、雑貨が破格の値段を競っていた。そこと、同じような品揃えだ。
 たとえば、千五百九十八円で売られている中国製工具の百点セットを、私はエイムズで十数ドルで買い、今も愛用している。中国・香港製の時計、アクセサリーが九百八十円から値付けされているのも同じだった。
 米国の消費市場は、世界に門戸を開放しているために、激しい国際価格競争にさらされている。松下電気産業の元幹部は、「アメリカのマーケットは恐い。どんどん値が崩れて行く」と漏らしたことがある。
 景気減速が懸念されながらも、戦後最長の景気拡大を続けている米国でさえ、こうした輸入品を軸にしたディスカウント商法は、物価下落に大きな役割を果たしている。ましてや、消費低迷が続く日本では、デフレを加速させているのは明白だ。
 「あら、これメード・イン・USAじゃないの」と女房が差出したのは、米国では有名ブランドのヨットパーカーだった。私は、タグを見て驚いた。百貨店のそごうのマークと、千円のセール価格が付いている。おそらく、そごうがアメリカから直輸入したもので、昨年末の閉店セールで売り出されたものの、買い手が付かなかったらしい。今回の処分では、五百九十八円にまで値段を下げていた。私はそれを買って、この国際流通戦争に敗れた商品の最後の吹きだまりを後にした。(2001年2月18日)

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