Wednesday, March 13, 2013

「すご腕」指揮者



 うわさの米国人指揮者がハワイから大阪に着いたのは、コンサート本番の三日前だった。彼の名は、ジョン・ブリッジズ。現職はホノルルにある有名私立校のバンド・ディレクターで、「すご腕だ」との評判だ。
 だが、今回彼が指揮をとる吹奏楽団は、大阪・神戸のほか、北京・上海・マニラの国際学校から集まった約九十人の高校生。音楽授業やクラブで吹奏楽の経験があるものの、楽器を習い始めてわずか一年半という生徒もいる混成楽団で、国籍や言葉もさまざま。しかも、みな、ブリッジズ氏とは初対面なのだ。
 課題曲の楽譜を渡されたのは、一カ月半前。メンバー各自で練習してきたが、「いったい、どうなるの?」と誰もが不安だった。
 実は、私の娘がこの吹奏楽団に参加していた。ブリッジズ氏に対する第一印象は、長身で目付きが鋭く、「演奏を間違えたらけっとばされそうな感じだった」が、合同練習が始まるや否や、真価が発揮される。
 「耳が鋭く、誰が間違ったか、すぐに指摘する」から、練習はほぼ五秒おきにストップ。各メンバーの集中力は俄然高まっていく。
 二日間で計十二時間の特訓。彼が生徒に与えた教訓は「タクトをよく見ること」、「間違っても慌てないこと」、そして「コンサートでは何かが起こるものだ」ということだった。
 ブリッジズ氏は、かつて米国のオーケストラでホルンを担当し、テノール歌手としても活躍。自ら管楽クィンテットを率いて演奏活動を行っていた。中学・高校で吹奏楽を教えるとともに、全米各地で音楽指導、指揮、審査員を務めること四十年余り。まさに、音楽教育一筋の人生だ。
 私はコンサートを聞きに行った。圧巻は、岩井直溥氏編曲による「ウエストサイド物語」。彼の絶妙なタクトさばきに、九十人が一体となって、ダイナミックな「ノリ」を聞かせた。
「音楽は世界共通の言葉です。」ブリッジズ氏のやさしい笑顔が印象的だった。
 指揮者といえば、先日亡くなった朝比奈隆氏は文字通りの巨匠であったが、世界の青少年に、音楽を通じて人間社会のハーモニーの大切さを教えるブリッジズ氏も、マエストロと呼ぶにふさわしい。The Bio of John Bridges
 (2002年3月9日)

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