Friday, March 1, 2013

ネイティブ・アメリカン・フルート



 この音色は何だろうか?大平原や渓谷を渡る風のようでもあり、水鳥の鳴き声のようでもあって、不思議な懐かしさが感じられる。尺八の音に近いが、よりくぐもった感じで柔らかい。
 ソルトレークシティー冬季五輪の開会式で、同じ音色が流れた。ユタ州の先住民族による「ネイティブ・アメリカン(NA)・フルート」の演奏である。
 NAフルートは、米先住民族の間で広く用いられ、各部族の儀式や、男女の求愛の際にも吹かれるという。杉材をくり抜いて作る縦笛で、穴は四つから六つ。吹口に細工が施してあるので、音を出すだけなら、尺八よりはずっとやさしい。
 西洋の管楽器がオクターブの整然とした音階を奏でるのに対して、NAフルートや、尺八・横笛など和楽器は、西洋音階とは異なる微妙な音色が持ち味だ。
 ナバホ、ユート両部族の血をひくカルロス・ナカイの演奏CDは、日本でも根強い人気がある。思うに、米先住民族の文化は、自然と人間が一体化している点で、日本古来の文化と似ている。そこで生み出された笛は、人の心に、自然への回帰を促す働きがあるようだ。それが共感を呼ぶ理由だろう。
 ところで、医療の世界でも、このところNAフルートが注目されている。実は、その音色を繰り返し聞いていると、血圧が下がり、心拍数が減少するそうだ。
 昏睡状態の交通事故患者が、枕元のカセットデッキから流れる笛の音に反応して、驚くべき回復ぶりを示した。また、深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされたベトナム帰還兵が、みごとに立ち直ったという。NAフルートの「ヒーリング・パワー」は、米国で高く評価されているのだ。
 「フルート・マジック」の著書がある奏者のティム・クロフォードは言う。「確かにある種の音楽は、日々の健康維持に役立つばかりでなく、肉体的・精神的なケガや病気を治す補助的手段として、すぐれた効果がある」
 日本では、小中学校の音楽の授業で、邦楽教育が行われているが、和楽器が持つ「癒し」の魅力も学んでもらいたいものだ。
 (2002年3月2日)

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